始まりの季節 -椿のこと-
皆さん、こんにちは。
農園管理人のシッチーです。
4月に入り、すっかり春らしい気候になりましたね。
農作業中に聞こえる音も、花を目的にくるジョウビタキやメジロの声から、春を告げるウグイスやヒバリの声に変わってきました。
さて椿たちはというと、花の季節から芽生えの季節に変わってきました。
実は農園を管理する私にとって最もソワソワするのがこの時期です。
この時期の芽生えが多いか少ないか、木のどの場所から芽生えるかで、その木が元気かどうかを判断しているからです。
ところで皆さん、木の命のサイクルってどこからスタートしているか考えたことありますか?
色々な人に聞くと、「花が咲いて」→「受粉(受精)して」→「実が出来て」→「種が成熟して」→「種が新しい命を生む」という答えが多いです。
確かにそれも1つのサイクルですが、それは木が大人になってからのサイクルで、大きく見ると始まりはもう少し前にあります。
そもそも、植物の成長には2つの種類があります。
「栄養成長」と「生殖成長」です。
これをものすごーく簡単に説明すると、「栄養成長」は自分の体を大きくする成長で、「生殖成長」は自分の遺伝子を次につなぐ成長です。
この2つの成長の分かりやすい例に、1年で一生を終える植物があります。
以下もものすごーく簡単に説明しているので、「こんな単純な話じゃないよ」というという意見を持つ方もいるかもしれませんがご容赦下さい(笑)
例えばこの時期にたくさん咲いている「菜の花」。
栄養成長:秋に種から芽生えて、冬の間地面に根っこを広げ、暖かくなったら葉っぱも大きく展開する。
生殖成長:春になると蕾が大きくなり、花を咲かせて、種を作り、種を落としたら一生を終える。
もう一つ珍しい例として、五島列島を代表する海の生き物「アオリイカ」があります。
栄養成長:初秋に浅瀬で生まれ、寒くなるにつれて海の深部に移動し体を大きくする。
生殖成長:春から初夏に浅瀬に戻ってきて産卵し、一生を終える。
実は1年サイクルなのは植物だけではなく動物もいるんです(゜o゜)
種(しゅ)は遺伝子を次に繋ぐことで存続する、そして子供を作るためには強い大きな体が必要、そして個体1世代は役目を終えたら力尽きる…
目には見えないとても大きなチカラ、永い歴史を感じずにはいられません。
さて、ここで最初の質問に戻ります。
木の命のサイクルのスタート地点の話です。
先の例のような1年サイクルがある生き物は始まりと終わりが分かりやすいのですが、何年も生きる椿はどこでどんな命のサイクルがあるのでしょうか。
椿の新しい命のサイクルは4月~6月、枝の先端の方で始まります。
「芽生え」です。
実は花が咲いている冬の時期に、原型である「葉芽(ようが)」が見られます。
花が終わり、葉芽が展開し始めるのが「芽生え」です。
芽生えが始まると約3週間~5週間かけて、5-10cm程度の枝を伸ばし、その両脇に5枚程度の若葉を作ります。
この時期の若葉は人間の赤ちゃんの肌のようにやわらかく、水分を多く含んでいます。
そしてそこからはしばらく栄養成長の時期です。
夏の強い日差しに耐えられるよう、クチクラ層を発達させていき、有害な紫外線を体に入りにくくしたり、大切な水分の蒸発を制御したりします。また、そういった外部との接触する表面積を最小限にするために体を厚く大きくしていきます。
そして枝の先端には次の冬に咲く花の原型である「花芽(はなめ)」を作ります。
この栄養成長が生殖成長に切り替わるのは10~11月くらいです。
花芽が徐々に膨らみ始め、冬に開花を迎えます^^
ここからは最初にも話した「花が咲いて」→「受粉(受精)して」→「実が出来て」→「種が成熟して」→「種が新しい命を生む」のサイクルが始まります。
これをまとめると、こんな感じです
【4-6月】芽生えの季節
【7-9月】栄養成長
【10-12月】生殖成長(花準備)
【翌1-3月】開花時期
【翌4-8月】生殖成長(種成熟)
【翌9-10月】種成熟完了
いかがでしょうか?
芽生えから約1年半のサイクルで1つの命が生まれて、次の世代に繋いでいきます。
逆に芽生えがないと花も咲かないし、種もできないんです…
この時期に私がソワソワしている理由がお分かり頂けたでしょうか(笑)
そして、椿は次の世代に繋いだ後の枝葉は、この世からなくなってしまうわけではなく、次の芽生えができる土台としてこの世に残り続けるのです。
また上記のサイクルを2世代重ねてみると分かることは、1年通して2つのことを同時に行っている事実です。
この世になにも残せていない自分、2つの仕事が同時にくると混乱してしまう自分とは大違い(笑)
やっぱり椿はすごいなと思います。
また、次回のコラムをお楽しみに♪
(シッチー)